ペインクリニック(痛みの外来)とは何ですか?
ペインとは英語で痛みを意味します。つまり痛みを治療する外来をペインクリニックと言います。
今までの医学では痛みは症状の一つとして医学的情報と考えられ、積極的に痛みをとることをしませんでした。また、痛みに耐えることも日本文化の上で美化されて来ました。
しかし、最近では積極的に痛みを治療することにより、血行をよくしたり、更に血行が良くなることにより病気の直りを促進するとも言われています。また精神的にうつ状態を改善する等とも言われています。しかし、まだまだ一般的には認められていません。
病気としては、様々の領域の病気が対象になります。眼科の病気では、網膜中心動脈閉塞症、網膜中心静脈血栓症。耳鼻科では顔面神経麻痺、突発性難聴。皮膚科では帯状疱疹による痛み、整形外科では、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、頚椎症、ギックリ腰(急性腰痛)、五十肩(肩関節周囲炎)などの病気による痛みが対象となります。その他、癌による痛みや頭痛、各種の神経痛などにも効果があります。手や足、腰や肩などの痛みでお悩みの方は、是非お近くのペインクリニックを受診してみて下さい。
なお当科は、一関地方の一般病院で唯一のペインクリニックを専門とする科ですので以下の症状でお悩みの患者様は遠慮なくおいで下さい。
頭痛
片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛
脳腫瘍,脳出血,髄膜炎などで頭が痛いときには、元々の病気の治療が優先します。これに対し、上に挙げた頭痛は、特別な病気がないのに起こる慢性的な頭痛で、いわゆる頭痛持ちと言われる人の頭痛です。ペインクリニックでは、飲み薬を主体に治療することで効果的に頭痛を改善します。
頚性頭痛
首の骨,関節などの異常で起こる頭痛です。飲み薬は効きにくく神経ブロックが効果的な頭痛です。
神経痛としての頭痛
後の項にあらためて述べますが、三叉神経痛や帯状疱疹後神経痛などの神経痛も頭部に症状が出ることがあります。
顔面の痛み
三叉神経痛
顔面に痛みを生じる代表的な疾患で、食事や会話,ひげそり,歯磨き,洗顔などに際し、突然の激痛に襲われ数分で治まるのが典型的な症状です。ひどいときには食事ができなくなることもあります。治療法は飲み薬,三叉神経ブロック,手術,放射線(ガンマナイフ)の四種類で、ペインクリニックで行う治療は、飲み薬と三叉神経ブロックです。この病気に効く飲み薬はテグレトールというお薬ですが、最近ではプレガバリンと言う良い薬もでました。
三叉神経ブロックは、痛くなる部分の感覚を少し鈍くして痛みが出なくする治療法です。いくつか種類があり、痛くなる部分によって使い分けます。三叉神経ブロックの有効期間はその種類によって1年から5年程度ですが、外来で行う5分から30分の治療でほとんどすべての痛みを取ることができます。三叉神経ブロックは、何回でも繰り返し行うことができますので、数年おきにこの治療を受けることで三叉神経痛に対処することもできます。三叉神経痛は、1回のブロック注射で痛みが止まるペインクリニックとは相性の良い疾患の一つです。
三叉神経ブロック:ガッセル神経節ブロック,下顎神経ブロック,眼窩下神経ブロック,眼窩上神経ブロックなど
その他の顔面痛
多くは後の項で述べる神経の痛みに属するものですが、原因がはっきりしないものもあります。そういったものも含め、飲み薬だけでなく神経ブロックを併用することで効果的に痛みを改善することができます。これには、星状神経節ブロックという首の交感神経を一時的に麻酔して顔面,肩,腕の血行をよくするブロック注射が、しばしば用いられます。
顔面の痛みは、虫歯などの歯科的な疾患や副鼻腔炎のような耳鼻科的疾患によることが少なくありませんが、そういった原因が否定されたときには一度当科を受診してみてください。
首の痛み
頸椎(首の骨),頸椎の関節,筋肉,頚神経(首からでる神経),靱帯(骨同士をつなぐ組織)など様々なものが、首の痛みの原因になります。原因に応じた神経ブロック注射,関節内注射,局所注射を行うことで徐々に痛みが改善します。
肩の痛み
肩の痛みには、五十肩に代表される肩関節そのものの痛みの他に、首に原因があって肩に痛みを感じるものが含まれています。肩関節そのものの痛みの場合、多くは肩の関節または滑液包と呼ばれる関節液の袋に注射を行います。首に原因がある場合は、頸椎や頚神経をターゲットとした治療を行います。
肩こり
頑固な肩こりも筋肉の血行を改善する星状神経節ブロックや局所注射で軽快することがあります。
腕や手の痛み
腕や手へ行く神経は首からでますので、腕や手の痛みの多くは、首の骨の変形や首の椎間板ヘルニアといった首の病変に起因します。この痛みの原因は、変形した骨や椎間板で刺激された神経の炎症ですので、神経周囲へ麻酔の薬や炎症止めの薬を注射する神経ブロック(星状神経節ブロック,腕神経叢ブロック,神経根ブロック,硬膜外ブロックなど)で炎症がとれれば次第に改善します。
首の他にも、鎖骨の裏や肘,手首など腕や手の痛みやシビレの原因になりやすい場所がありますのが、これらにも原因に応じた注射の治療は有効です。
背中や胸の痛み
背中や胸の痛みは、心臓や大動脈の重大な病気による可能性がありますので、まず、その可能性を考える必要があります。痛みの性質や検査からこれらが否定されたときは、当院を受診してみてください。肋間神経の痛みや背骨の変形,圧迫骨折,関節の痛みであれば、神経ブロックや背骨の関節への注射が有効です。また、首に原因があって背部に痛みを感じることも少なくありません。その場合は、首や腕の痛みと同様の治療になります。
腹部の痛み
腹部の痛みの大部分は、内科や外科の治療対象となる病気です。しかし、腹部の表面的な痛みや、胃のあたりの痛みの中には、背骨が関係しているものがあるので、内科や外科の診察で異常がなければ、当院を受診してみてください。背骨周辺への神経ブロックや関節への注射が有効なことがあります。
また高齢者では骨粗鬆症による痛みの場合もありますので、必要に応じて骨密度の検査も実施します。
腰痛
一言で腰痛といっても、腰の背骨,関節,筋肉,椎間板などその原因は色々です。原因により直りやすさは様々ですが、一つハッキリしていることは、発症して間もない急性の腰痛ほど、原因が単純で直りやすいということです。慢性の腰痛は、原因が複合的になっているためか、治療に時間がかかるように思います。ブロック注射は、別に怖いものではありませんので、早めに受診してください。硬膜外ブロック,関節内注射,関節へ行く神経の高周波熱凝固,椎間板への注射等々適切な治療法を選択し治療に当たります。
脚や足の痛み
下肢の痛みの多くは、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアといった腰の病気が原因です。
脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、背骨の後ろの神経の通り道が窮屈になって、歩行時に脚に行く神経の血流が不足し痛くなる病気です。時間はかかりますが、硬膜外ブロックという神経ブロックを定期的に行うことによって徐々に痛みが出にくくなり、歩きやすくなってきます。ブロック注射により窮屈な脊柱管が広がるわけではありませんので、完全に症状が取れないことも少なくありませんが、治療の間隔を広げても落ち着いた状態を維持することができるようになります。
腰椎椎間板ヘルニア
背骨にある椎間板の一部が後ろに飛び出し、脚に行く神経が刺激され脚に痛みを生じる病気です。痛みは、神経の炎症によるものですので、硬膜外ブロック等の神経ブロックで神経の炎症が取れれば、痛みは軽減します。ヘルニアの多くは、時間が経てば自然に消失するものですので、痛みさえなくなってしまえば、それを待つだけでよいのです。
神経ブロックだけで改善がなく、効果が期待できるときには、椎間板やヘルニアに注射をする治療法もあります。
変形性膝関節症,変形性股関節症
代表的な関節の痛みです。関節軟骨の損傷から始まりますが、初期の段階であれば、関節内に軟骨を修復する薬を注射することで軽快します。
その他神経の痛み
帯状疱疹/帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹は、子供の頃かかった水痘のウィルスが神経の中に生き残っていて、抵抗力が低下したときに活動を始め、神経に沿って発疹と痛みを生じる病気です。発疹や痛みの起こる場所は、頭の上から足の先まで様々です。この病気は、発疹が治っても痛みだけ帯状疱疹後神経痛として残ることが少なくありません。
ペインクリニックの治療は、初期の痛みにも後に残る帯状疱疹後神経痛にも有効です。初期の段階から痛みの治療を開始した方が、後に神経痛を残しにくいと言われています。また、後に残った神経痛は、完全に取れないことが多いので、なるべく早期に治療を受けられることをお勧めします。
手術,歯科治療,外傷の後残った痛み
手術の直後に傷が痛むのは当然ですが、時として傷が治っても痛みだけ残ることがあります。術後カウザルギーというのが典型的な状態で、手術で傷ついた神経の領域に自発痛と衣服などが触ったときのピリピリする痛みが持続します。一般的な手術以外、歯科治療や怪我のあとにも同様な痛みが残ることがあります。
これは、決して手術に問題があったわけではなく、手術操作によって必然的に細かい神経が傷つくことによると思われます。痛みが残るか残らないかは運のようなものです。
多くはペインクリニックで治療可能ですので当科にご相談ください。
反射性交感神経性萎縮症
手術や外傷,帯状疱疹などの後に上肢や下肢が痛みを伴って腫れ上がる病気です。これも、治療開始が早いほど痛みを残しにくい病気ですので早めに受診してください。
癌の痛み
癌のほとんどは痛みを伴いますので、癌そのものの治療と平行して痛みの治療を行うことが望ましいと思われます。癌の痛みのほとんどは、麻薬を使用することでとることができますが、麻薬で取れにくい痛みにも特殊な薬を使用したり、神経ブロックを行うことで対処することができます。
顔面痙攣,眼瞼痙攣
両側のまぶたや片側の顔面筋が、痙攣して目が開かなくなったりする病気です。ボツリヌス菌という細菌の毒素を精製した薬剤があり、これを少量まぶたや頬に注射することで、痙攣を止めることができます。簡単で安全な方法ですが、一回の注射の有効期間は4ヶ月程度です。
残念ながら当院では施行しておりません。
顔面の麻痺
顔面の表情筋は、顔面神経という神経で動きます。顔面神経の麻痺が起こると顔面の筋肉が動かなくなります。耳の後ろなどに痛みを感じることもありますが、何も自覚症状がなく、鏡を見たり口角から水が漏れたりして気がつくことも少なくありません。治療は、星状神経節ブロックやステロイド剤などで行いますが、最初の2週間くらいが最も重要ですので気がついたらすぐに受診してください。